・AIによって職を失う人が多く出ることによる社会問題
意外なことに、人工知能の歴史は古く、第一次人工知能ブームは1950年代の後半に起こりました。
そして第二次人工知能ブームを経て、今の第三次人工知能ブームが到来しています。
AIに関連する話の中でも、「人間の仕事を奪う」というイメージに直結させるような話題が多く取り扱われています。事実、予想される未来は人間の雇用をAIに奪われてしまうというものです。
会社側は人件費が浮きますし、AIやロボットの導入による利点はいくつもあります。
その結果、多くの人が職を失うことになってしまうのです。
特に、レジスタッフなどの専門性を有さない分野はすぐに替わられてしまうと予想されています。
反対に、専門性を有する医者や弁護士、カウンセラー等は完全にAIに替わられてしまうということはないでしょう。
そうして専門性やコミュニケーション能力が重要な職業、創造性が求められる分野以外の多くの職業に就いている人に何が起こるのかというと、失業です。
リストラされてしまう可能性が大いに出てきます。
10~20年後には約半数の人が職を失うと言われているほどに、リストラの波は確実に押し寄せてきています。
約半数、つまり50パーセント。二人に一人が失業するという、とんでもない数値です。
AIによって失業者が大量発生したらどうなるのか?
そこで失業者はどうなってしまうのかという問題が浮上します。
仕事を失ってしまうと、生活ができません。家族のいる人は一家そろって路頭に迷うことになりかねない状況です。
ただでさえ雇用の幅が狭まった就職氷河期以上のご時世では、なかなか再就職もままならないでしょう。
求められる人材というのは、多くが専門的な知識やスキルを要するものばかりです。そうなってしまうと、一日二日でどうにかできるものでもないですし、やっと知識やスキルを身に着けいざ就職活動!と行動を起こしたころにはもう遅い……なんてことにもなりえます。
そうなると、国が動かなければならなくなってきて、多くの失業者への対応が求められるでしょう。
日本には生活保護や失業保険というものが存在しますが、失業者が続出するだろう未来を見越し、今は「ベーシックインカム」という制度が注目されています。
AIの失業問題を解決するベーシックインカムについて
ベーシックインカムという言葉を、ニュースなどで一度は見聞きしたことがあると思います。
では、ベーシックインカムとはどのような制度なのでしょうか。
ベーシックインカムとは、国が全ての国民に無条件で毎月一定額のお金を支給するという制度のことです。
一見、今の世の中から考えるとひどく荒唐無稽な話のように聞こえますが、日本では衆院選の際、希望の党が公約として掲げていましたし、この制度については日本のみならず世界が注目しています。
スイスでは2016年にベーシックインカムの導入をするかしないかの是非を問う国民投票が実際に行われました。
投票の結果は否決となり導入にはいたらなかったのですが、フィンランドでは貧困層を対象とした社会実験を始めたりと、実験的に取り入れている国もあります。
その他にもインドやイタリア、オランダやケニア等でも導入実験が行われた実績があります。
しかしこのベーシックインカム制度には問題がいくつかあります。
ベーシックインカムの問題点
一番の重大な問題として財源はどうするのかという疑問の声も上がっていますし、何もせずともタダでお金を貰えるとなると労働意欲が低下し、怠けてしまうのではないかという懸念の声も上がっています。
いち早くベーシックインカム制度を導入しようと動き出した国で度々上がった意見です。
財源確保のために上がる税金や変わる社会保障制度等、それに加え人の在り方という哲学的な分野でも問題視されたのです。
しかし、何もしなくてもお金を貰える環境では怠惰になってしまうと心配する声に反し、実験に参加した人からは前向きな声が聞けました。
生活費を稼ぐことに精一杯で、労働に明け暮れ本当に自分がしたいことができなかったのに、新しいことに挑戦するチャンスができたというのです。
毎月支給されるお金のおかげで生活がある程度保障されていて、しかも時間も確保できるということは、新たな挑戦に繋がる可能性があるのです。
ベーシックインカムの制度は働いている、働いていないにかかわらず国民全員にお金が支給されるので、起業したいが仕事のせいでとれる時間がない、失敗したときのことを考えると金銭的に不安だという問題を解決できるのです。
生活費が国からもらえるというのならば、仕事を無理に続ける必要もないと心の余裕が生まれますし、いざ起業や事業が失敗した時でも最低限の生活が保障されているのならば不安も和らぎ挑戦しようと思う人も今より多くなると予想されます。
今までしたくてもできなかった勉強や趣味に時間を割いたり、ボランティアに参加することもできるようになります。
ベーシックインカムの導入は、日本で問題視されている長時間労働や過労死などの社会問題の解決策にもなるでしょう。
今日ではブラック企業という言葉が一般化してしまいましたが、そのブラック企業を淘汰できる政策でもあります。
財源確保の問題が解消されれば、まさに理想的な制度といえるでしょう。
しかし、メリットの裏にはデメリットもあります。
先にも少し触れましたが、財源の確保についてです。
今ある年金や生活保護、失業保険を受けるにはそれぞれ条件があります。
しかし、ベーシックインカム制度は全ての国民が何の条件もなく等しく毎月一定額が貰えるのです。
働いている人、いない人も関係なくです。すると、莫大なお金がかかってくるのは明らかです。
導入が現実のものとなれば、年金、生活保護、失業保険はベーシックインカム制度によって不要になりなくなることが予想されます。
しかし、医療費はどうなるのでしょうか。国民皆保険制度があるので、ベーシックインカム導入後もその制度が続くのであれば医療費の確保も必要になります。
ベーシックインカム制度を導入するにあたっては、財源確保の面で重ねて問題となるでしょう。
次に、労働意欲の低下が起こるかもしれないという問題についてです。毎月生活費が支給されるのであれば、最低限の生活に甘んじてしまう可能性が大いにあります。
過酷な労働を要する職からは労働人口が遠ざかり、AIではできない人間の手が必要な場所に人材の確保ができなくなってしまうかもしれないのです。
その場合は賃金を上げることで解決することが見込まれます。これが一番現実的な解決策ですし、賃金が高く設定されていれば人は集まるでしょう。
労働意欲の低下はベーシックインカム制度の導入によるデメリットでもあるかもしれませんが、不当な労働環境から脱するきっかけにもなりますし、賃金を上げざるを得ない状況になることで労働に対する正当な対価が得られるようになるというのは喜ばしいことです。
そして、毎月お金が支給されることにより貧困層の問題解決にもなるのです。
また、AIによる失業の波に影響を受けなかった層が、ベーシックインカム制度の導入により仕事を辞めるのかというと辞めないだろうと予測する人がいます。
より生活を豊かにしたいと考える人や、毎月の支給額にプラスして給料があれば様々なことが可能になり、「今までは手が届かなかったけど、○○が買いたい」「海外旅行に行きたい」等の新たな趣味や目標ができ、更に稼ぎたいと思う人が出てくることも予想されます。
結果、労働意欲にもつながるのです。
ベーシックインカムが導入されたとして、それをうまく生かすも殺すも個人の采配次第になります。
今から、各々が仕事やお金の使い道に関して真剣に考えていかなくてはなりません。